透析を受けている方や家族の災害対策

災害により、大きな混乱が生じると、医療機関や公共機関のサービスも行き届かなくなります。災害発生当初は、自分の身は自分で守ることが重要です。
個人や家族がおこなう一般的な災害対策については、さまざまな書籍が出版されていますし、政府のホームページ(注9)にも掲載されていますので、読んでおくことをお勧めします。これらの基本的な災害対策のうえに、透析を受けている方には、さらに注意しておいて欲しいことを以下に列挙しました。特に地震の時の対応について書いておきます。
※ダウンロード版では、自分が実行しているか・知っているか、チェックシートとしてお使いください。

平時からの災害対策・心得

  • 自分の病状や透析の状況について把握しておく
    • 糖尿病、高血圧、心臓病があるか
    • 薬や食べ物にアレルギーはないか
    • 最新のドライウエイトを覚えておく
    • 薬の内容を知っておく
    • 肝炎ウイルスなどの感染症はあるか
  • 近所にいる透析を受けている方と、知り合いになっておく。(いざというときに助け合えるように)
  • カリウムが高い方、体重増加が多い方が,災害で透析が受けられなくなれば生命の危機に直結します。カリウムや塩分の制限を日頃から守りましょう。毎日の食事療法も災害対策の1つです。
  • 1~2日分のお薬やインスリンを常に携行。
  • お薬手帳を常に携行。
  • 災害緊急時透析情報カードを常に携行。
  • 災害緊急時透析情報カードに記載された避難場所(注10)に、実際に行ってみる。
  • 自宅近くの避難場所を家族にも伝えておく。
  • 住所や連絡先、避難場所が変わったときはすぐに、透析を受けている医療機関に知らせ、災害緊急時透析情報カードを更新する。
  • 防災訓練や、勉強会に積極的に参加する。
  • 自分の通っている透析施設での、緊急離脱の方法を知っておく。(災害がおこったとき、透析を直ちに中断し、返血もせずに透析回路から離れることを緊急離脱と呼びます。緊急離脱の方法は施設によって異なります。)
  • 自分の通っている透析施設以外の、近隣の透析施設の場所も確認しておく。
  • 大規模災害の場合、しばらく地元から離れ、透析を受けることになるかもしれません。親戚や友人など、いざというときにお世話になれるところがないか考えておく。
  • 被災した透析施設で透析を受けていた方が、自分の透析施設で透析を受けることがあります。大勢の方に透析を行う必要があるので、自分の透析時間が短くなったり時間帯を変更したりすることがあります。皆さんのご理解とご協力をお願いします。

透析中に地震がおこったとき

  • 揺れている間は、危ないので起き上がらない。
  • 手に固定された透析回路を握り、針が抜けないようにする。
  • あいている手でベッド柵につかまる。
  • 布団をかぶり、落下物から身を守る。
  • 揺れが収まっても、あわてて動かず、透析の継続が可能かどうか、透析終了するのか、医師や責任者が判断するので、スタッフの指示を待つ。
  • 透析を終了する場合は、指示に従い、通常の返血か、緊急離脱のどちらかで行う。
  • 避難の指示あれば、スタッフの誘導に従って、冷静に行動する。
  • 避難するときは、足をけがしないように靴を履く。
  • エレベーターは途中で止まる可能性があるので、使用しない。
  • 避難した後もすぐに帰らず、透析施設で状況の説明を聞くまで待つ。

非透析日や透析を受けていないときに地震がおこった場合

  • 揺れている間は、まずは自分の身を守る。(転ばないようにつかまる、腰をかがめる、落下物にも気をつけるなど)
  • 揺れが落ち着いてから火元確認する。
  • 家の中や周囲の被害状況をみて、危険なときは避難する。
  • ラジオ、テレビ、インターネットなどで災害情報を入手する。
  • 震度5以上の地震では、施設が損壊し透析ができなくなる場合があります。(震度4までの地震であれば透析施設が深刻な被害を受けることはありません)
  • 自分の通っている透析施設に連絡して、自分の被害状況や所在を連絡するとともに、透析が通常通り受けられるのか確認する。透析施設が被災して透析ができないときは、替わりの施設で透析をすることになります。代替施設が決まれば、その連絡が受けられるようにしておく必要もあります。(注11)
  • 透析施設の被害状況は日本透析医会災害時情報ネットワークでも確認することができます。

災害時の通院手段

  • 大規模災害の場合、交通網が遮断され、透析施設までの移動が難しくなるかもしれません。しかしあらかじめ、災害時の移動手段まで確保しておくことはとても難しく、まずは透析を受けている方ご自身や家族の力が頼りです。あるいは近所の方の助けも必要になるかもしれません。緊急時や自力での移動が困難な場合は、救急車やヘリコプターによる移送も想定されますが、台数に限りがあり、より重症の方が優先されます。現実に災害が起こったときの移動手段について、長野県透析医会としては、県災害医療本部や医療機関と連携・相談しながら、臨機応変の対応になると考えています。

避難しているときの注意点

  • 避難場所(避難所)に避難したときは、自分は透析を受けていることを救護スタッフに伝えてください。このときに災害緊急時透析情報カードを提示してもよいです。このアピールはとても重要です。自分の電話がつながりにくいときでも、避難場所(避難所)の救護スタッフを通じて、透析が必要な方が避難している情報が、医療機関に伝わります。
  • 災害で避難しているときの配食は、透析を受けている方に配慮した食事内容ではありませんので、自分で注意しなければなりません。塩分、カリウムの多い食品は控えめにしておきましょう。しかし、避難しているときでも栄養を十分とることは重要です。ご飯やパンなどの主食はしっかりとりましょう。水分は控え過ぎると深部静脈血栓症やエコノミークラス症候群を起こします。夏場や暑いときには、熱中症の予防としても水分補給は必要です。一方で、過剰な水分摂取は肺水腫、心不全を起こします。水分は適度にとることが大切です。
  • 心臓や血圧の薬はできるだけ続けましょう。糖尿病の方は、血糖を下げる飲み薬やインスリンの注射は、食事が少ないときには減らしておくことも考えましょう。
  • いつもと違う症状があるときは、救護スタッフや透析スタッフにお知らせしましょう。
    • 発熱(感染症)
    • 息苦しさ、手足のむくみ(心不全)
    • 頭痛、吐き気、だるさ(尿毒症)
    • 脱力感、唇や手足のしびれ、動悸、脈の乱れ(高カリウム血症)
    • シャントの閉塞、赤み、腫れ、穿刺痕からの出血(シャントトラブル)
    • 冷や汗(低血糖)
(注9)
(注10)
市町村が指定する災害時に避難するところには、指定緊急避難場所と指定避難所の2つがあります。避難場所は災害の危険を避けるためにひとまず集まる場所(たとえば公園や校庭)であり、避難所は災害で避難した人が生活する場所(たとえば公民館や学校)になるところです。避難場所と避難所が同じ場合もあれば、異なることもあります。正確には避難場所と避難所は定義が異なりますが、災害緊急時透析情報カードでは特に区別せず、「避難場所」と記載しています。もし、実際の避難場所と避難所が異なる場合にはそれぞれを確認しておく必要があります。
(注11)
透析施設が被災して透析ができなくなった場合、通院している方には透析施設から連絡をします。しかし、透析施設では災害発生後、かなりの時間は、施設内の対応におわれるので、すぐに連絡することができません。また、電話が混線してつながりにくくなる可能性もありますが、ご理解とご協力をお願いします。

参考文献

  • 透析室の災害対策マニュアル(赤塚東司雄、メディカル出版社)
  • 災害時における透析医療活動マニュアル(東京都福祉保健局)
  • 救急医学(2016年3月号 ヘルス出版)
  • 宮崎県透析医会災害マニュアル(宮崎県透析医会ホームページ)

コメントは受け付けていません。